『彼女はぼくのもの』




その日は何かを悩んでいるような神妙な顔でチハヤの家のドアをくぐった。

、どうしたの?」

チハヤは神妙な顔をしているに戸惑いながら声をかける。

「うーん…今日ね、ルークから手紙が届いたんだけど、最後の便箋にかいてある内容がよくわかんなくて…」

「ルークからの手紙?」

戸惑いの顔から一転、不機嫌ともいえる怪訝な顔を表情にだすが、は特に気にもとめず、

「これなんだけど…」

とその便箋を出してみせる。

「いいの?勝手に人の手紙見せて。」

「えっ?別にラブレターじゃあるまいし、ここはそんなたいした内容じゃないと思うから大丈夫だよ。」

ケラケラと笑いながらこともなげにチハヤにその手紙を渡す。

このぶんじゃ、ぼくがこの間にあててわざわざ書いた手紙も、たいしたことない扱いされてるかも知れないな。

少々不機嫌になりながらも、その手紙を手にして読んでみる。

『水曜日に 樹の上で ダイナマイト』

一回読んだだけじゃ意味がわからないその文を、何回か読んでさらにチハヤの機嫌は悪くなった。途端にグシャリとつぶされる手紙。

「あぁぁ!!何するの!!!」

の非難の声を無視して後ろにポイと投げる。
それをは急いで拾い上げ、丁寧に机の上で伸ばす。

「もー…ヒドいよチハヤ。せっかくの手紙…」

がブツブツという文句達は、ただただチハヤを不機嫌にするばかりである。

「いいよそんな手紙。たいしたこと書いてないんだから。」

「えっ、チハヤ、手紙の意味わかったの?教えてよう。」

「知らない。」

そういって朝食の準備をチハヤは始めた。はむすっとした顔でそんなチハヤを目で追う。

「そんなことより、、朝ご飯は?」

「あ。そういえばまだだった。」

「だと思った。今からぼくも朝ご飯食べるところだったから、一緒に食べていきなよ。」

「ホント!?うわぁありがとう!!」

満面の笑みを浮かべながらはさっさと席につく。

実は朝ご飯はいつもがくる前には食べ終えてるチハヤだが、今日はわざわざ食べずにが来るのを待っていたのだ。
そのために朝食の下準備は済ましてあり、すぐに朝ご飯の調理は済んだが。

「はい、お待たせ。」

「わぁー!!こんなにしっかりした朝ご飯久し振り!それに、さすがチハヤ、料理作るのも早いね。」

「まぁね。」

そんなことは口が裂けても言わない。

自分が楽しみにしていたとは思われたくなかったのだ。
あくまで自然に、自然を装って。

は「いただきまーす!」と元気よく両手を合わせ、飯に向かう。
一品食べるごとに美味しいといって幸せそうにするをみて、チハヤは嬉しそうにほんの少し頬を赤くしながら自分も箸を進めていく。

その状況をもう少し楽しみたいチハヤだったが、それよりも気になることがあった。

ってさ、ルークと仲いいの?」

「うん?悪くはないよ。」

食事をしながら、は『どうして?』といった風に首を傾げる。

チハヤはまた不機嫌になりながら質問を重ねる。

「じゃあルークのことは好き?」

「好きだよ。」

「じゃあタイムは?」

「好き。」

「ぼくのことは?」

「好きだけど…って、どうしたのチハヤ?お、怒ってる?」

「…別に」

大体予想していたことだ。
ぼくもルークもタイムみたいなちびっ子と同レベルの感情しか、に持たれていないことなんか。

そう思って「はぁっ」と肩を軽く落とし、に苦笑の混ざった笑みを向ける。

「なんでもない。」

「そう?…あ、そうだ!今日はね、オレンジのマーマレードジャムを作ってきたの!」

いつもオレンジジュースばっかで芸がないと思われたくないしね。と笑って、可愛らしい小さな瓶を机に置く。

「へぇ。ジャムなんて作れたんだ。」

「えへへ。実験に実験を重ねたジャムなんだから!たぶん美味しいよ?」

は胸を張って言い放つ。
自分のためにわざわざ少し手間のかかるジャムを作り、キチンとした瓶に入れてくれる。オレンジジュース同様、このジャムも相当美味しいに違いない。

「ありがとう。うれしいよ。」

素直にチハヤが笑顔で礼をいうと、は少し照れて身を小さくさせ、えへへと顔を赤くして笑った。

今はまだ自分に向けられる感情はちびっ子と同等レベルの「好き」だけれど、いつかぼくだけを「大好き」といってもらえるような関係になれたら…

いいや、なってみせるさ。

は、ぼくのものにしてみせる。


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